深く!楽しく!学べる登山 〜ヤマノボリへのやさしい手引き〜

登山に欠かせない様々な知識や技術…記事や動画で、ビギナー向けの登山のイロハからベテランにも役立つテクニックまで様々な情報が満載です☆

第5章 山どうぐを選ぼう!〜自分に合った装備の選び方・ウェア・小物編〜

ウェアの選び方

*鷲尾…さあ、次はウェア選びですね。

*齋藤…わーい、かわいい服がいっぱい♪好きなの選んで良いよね?

*鷲尾…まあ、こういう登山用品店に置いてあるのなら、まず大丈夫ですかね。モノによっては一般の衣料品店やデパートで買う場合もあるでしょうから、ちょっとだけアドバイス。キーワードは「吸水性(吸汗性)」「速乾性」ついでに「伸縮性」の3つです。

*齋藤…また、難しい単語を出してきたね。

*鷲尾…わかりやすく言うと「綿(=コットン)」は絶対ダメ。

*齋藤…えっ!普段着てる服ってだいたい綿だと思うんだけど。

*鷲尾…なぜダメかというと…綿だろうがウールだろうがポリエステルだろうが、おおよそ繊維というものは吸水性はあるので、かいた汗を吸い取ってくれることに変わりはありません。ところが綿というのは、速乾性がないんですよ。曇った日に洗濯物を干すと、トレーナーとかジーパンとか厚手の綿製品って、最後まで生乾きでしょう?つまりかいた汗を吸いとってくれるところまではいいけれど、濡れたままの衣服が身体にまとわりついた状態がずっと続く。山で身体が濡れた状態がどれだけ危険かって話は、さっき雨具の時にしましたよね?山の衣類、特に身体に直接触れる肌着類は、綿を避けて吸い取った水分をすぐ乾く、速乾性がある素材を選んでください。

最後のキーワードの伸縮性は、とくにズボンとかに必要ですね。登山では大きな段差を越えたりするので、ひざの曲げ伸ばしが多いんです。その時に伸縮性のない素材だと、脚に負担がかかったり、そもそも動きにくいこともあるんです。登山のズボンのチョイスで最悪なのがジーパンとかチノパンなんですけれど、これは綿製なのでもちろん濡れたらなかなか乾かないし、伸縮性もないから膝の曲げ伸ばしもしにくいからなんです。

*齋藤…速乾性がある素材って、どんなもの?

*鷲尾…一般的には、ナイロンとかポリエステルとか、カタカナ文字で書いてある化学繊維ですね。逆に言うと、この速乾性があることを満たしていれば、登山用品店で高い製品を買わなくても良い場合もあります。むしろ、最近はアウトドアブランドを街で着る人が多いので、デパートとかのアウトドアブランドのお店だと、登山用と同じロゴ・デザインなのに実は綿70%でポリエステル30%なんていう混紡のシャツもありますから、そういうのは登山用に買っちゃダメです。

*齋藤…なるほど。タグをよく見ないとダメだね。

*鷲尾…最近は速乾性どころかまったく水を含まず、外側のウェアに水分を逃がしてくれる肌着なんていうすごいの(写真25)もありますけど、あれは快適ですね。

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写真25:身体表面の水分を外側のウェアに逃がす完全ドライのアンダーウェア

*齋藤…すごーい!それで、何を買えばいいかな?

*鷲尾…そうですね、まず下半身は…。女性の場合は山スカート、男性でもハーフパンツとかにタイツ(もしくはサポートタイツ)っていう組み合せも流行ってますが、脚を大きく開く場面が多い急坂や岩場で行動する時や、転んだ時の怪我を考えると、最初は長ズボンが無難な気もします。

上半身は…。下着もしくは肌着(Tシャツなど・女性の場合は腕の日焼けに備えて長袖のカットソーを選ぶ人も多い)を「ベースレイヤー」と呼んでいて、さっきの速乾性を重視した素材を着る。さっきの動画の場合みたいに、そもそもまったく汗を含まない素材をさらに内側に着るのもありですね。その上に襟付きの長袖シャツや寒い場合はフリースやダウンなど、身体を保温するための「ミドルレイヤー」を羽織る。さらに風雨が強い時に雨具などの「アウターレイヤー」を着る。そういう順番で、薄手の素材を何枚も重ねて、暑さ・寒さに応じて脱いだり着たりをこまめに調整してあげることが必要です。これまた難しい言葉を使うんですが、これらの行為をレイヤリング(写真26)という言葉で呼んでいます。

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写真26:レイヤリングを工夫して楽しく登山

*齋藤…めんどくさーい!

*鷲尾…聞いてるだけだとそう思いますが、寒くなったら着る、暑くなったら(汗をかく前に)脱ぐっていう行為を繰り返しているだけなんです。つまり、身体が常に快適な状態を保っているだけ。さっき、肌着は特に速乾性を重視って言いましたが、レイヤリングをこまめに工夫してやることで、そもそも汗をなるべくかかない様にするってことが、究極のレイヤリングですね。

*齋藤…めんどくさがらずに、脱いだり着たりしろってことだね。

*鷲尾…そうですね。だから、頭から被らないと着れないトレーナー型のモノより、フロントジップの付いているパーカー型の上着の方が良いし、身体の熱がこもってしまうタートルネックより、フロントのボタンを外したりジッパーを開けたりすることで熱気が放出できるタイプの上着の方がおすすめです。そこらへんさえ押さえておいてくれれば、とにかく気に入ったコーディネイトで良いですよ!

*齋藤…やったー!じゃあ、ちょっと選んでくるね!

 

その他のグッズ

*齋藤…(ウェア売り場で約1時間を過ごした後に)ただいま!あっちの売り場のお姉さんと仲良くなっちゃて、全部コーディネイトしてもらっちゃった!

*鷲尾…(完全に待ちくたびれた)お、おかえりなさい…。気に入ったウェアが揃って良かったですね。

*齋藤…あと、何か買っておいた方が良いものってある?

*鷲尾…う~ん、とりあえず最初の低山ハイキングだったら、これくらいで十分じゃないですかね?

*齋藤…ズボンも買ったけど、山スカート(写真27)も買っちゃった!サポートタイツは必要かな?

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写真27:山スカート

*鷲尾…最初はサポート機能のあるタイツ(写真28)じゃなくて、普通のタイツで良いと思いますよ。サポートタイツは筋力が落ちていたり、膝に痛みがある人の脚をサポートするために作られているので、そういうお悩みがない人が履くと必要以上に締め付けられたりして、足を攣ったりすることも多いんです。

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写真28:サポート機能のあるタイツ

*齋藤…そういえば、さっきのお姉さんのいた売り場に帽子も売ってたけど、ついでに買っておいた方がいいかな?

*鷲尾…帽子は、もし既に持っていたらそれでも良いですけど、あった方が良いですね。

*齋藤…今持ってるのは、このあいだ神宮球場で買ったスワローズキャップ!

*鷲尾…(新潟出身のヤクルトファン?)うーん、特に春~夏の登山を考えると、できればつばが前にしかついていないキャップ(野球帽)タイプよりは、つばが全面についてるハットタイプがおすすめですかね。帽子の大切な役目として直射日光から頭部を守ることがあるんですが、特にガードしたいのが首の後ろ(うなじ)の部分なんです。ここに体温調整の中枢があるので、うなじが直射日光に当たると熱中症などにかかりやすくなってしまいます。逆に気温が低い冬の時期だと、ガードしたいのは凍傷にかかりやすい末梢部(耳)なので、スキー帽のような耳まで覆えるタイプがおすすめです。あと山は紫外線が強いので、サングラス(写真29)も必要ですね。

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写真29:帽子とサングラスは夏場や森林限界上の登山では必需品

*齋藤…体力が心配だから、ストックはあった方がいい?

*鷲尾…これは最初から買う必要はないですよ。ストックは大きく分けるとグリップがT字型のもの(杖のように1本で使用する)と、グリップがI字型のもの(スキーと同じく2本で使用する)があるんですが(写真30)、いずれにしても、体力が落ちて杖の支えがないと登りがしんどい人や、下り坂ですぐ膝が痛くなっちゃう人のための補助として使うものですからね。むしろ、最初からずっと使っていると身体がストックに頼りきりになってしまって、ストックなしで2本足で歩こうとするとうまくバランスが取れないなんて言う本末転倒なことになっちゃう。

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写真30:I字型ストック(左)とT字型ストック(右)

*齋藤…他に必要なものはある?

*鷲尾…齋藤さんの登山では十中八九使うことはないと思うけど、持っていてほしいのはヘッドランプとレスキューシート(エマージェンシーシート・サバイバルシートなどとも呼ばれる)ですかね。

*齋藤…(ヘッドランプを見て)懐中電灯じゃダメなの?(レスキューシートを見て)何これ、アルミ箔みたい!

*鷲尾…まずこのヘッドランプ(写真31)、山頂でご来光を見るために真夜中から歩き始める富士登山とかを例外に、普通は登山中は使用しません(※注6)。でも、もし自分や仲間が足を挫いて歩くスピードが極端に遅くなってしまって、下山する前に日没を迎えてしまったらどうします?山の中に街灯はないから、自分が「灯り」をもっていることが唯一の道しるべになるかも知れません。懐中電灯よりヘッドランプがおすすめなのは、さっきの傘と雨具の比較同様、両手が空いた状態をキープできるからなんです。

※注6…山小屋で消灯後にトイレに行ったり、早朝出発の際の荷造りをする際は、使用すると便利です。

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写真31:様々なヘッドランプ

*齋藤…アルミ箔は?

*鷲尾…レスキューシート(写真32)は…例えばさっきみたいな状況で、ヘッドランプを使っても麓までたどりつけない場合、近くに山小屋などがなければ、山の中でビバーク(野宿)するしかないですよね。もちろん、ただでさえ寒い山の中で夜ともなれば、気温は非常に低くなる。そんな時に、このレスキューシートを身体に巻きつけておけば、身体が保温されて低体温症にかかるリスクが下がります。

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写真32:レスキューシート(エマージェンシーシート)

*齋藤…万が一の時のことを考えておけってこと?

*鷲尾…素晴らしい!万が一って事態は、もちろんそう頻繁に起こる訳ではない。けれども、その万が一の状況に陥った時にその備えをしていなかったら、深刻な事態になってしまうのが登山のシビアなところです。例えば晴天の日でも雨具はちゃんとザックに入れておくって行為、これも一見無駄に思えるかもしれませんが、万が一途中で雨に降られてしまって雨具を持っていないために濡れてしまったら、先程の通り生死に関わりかねない。山では「まさか・万が一」の事態が起こってしまうと取り返しのつかない結果になることが多いので、その備えをしておくことが重要なんです。

*齋藤…保険みたいなもの?

*鷲尾…ますます素晴らしい!保険であり、お守りでもあります。特にレスキューシートなんかは、できれば一生使わないで済むに越したことはありません。でも万が一レスキューシートが必要な局面に陥った時に、持っている人と持っていない人では、それこそ生死を分けるボーダーラインになり得ます。最近は登山用品店やメーカーも、自分たちの製品を登山用だけでなく防災用としてPRしているのも、そのあらわれですよね。

*齋藤…ふーん。

*鷲尾…何か、重い話になっちゃいましたかね?とりあえずヘッドランプとレスキューシートはザックの中にしまっておいて、大事にとっておけばいいですから。

それより、靴、ザック、雨具、ウェアのトータルコーディネイトができたことは、今日の大きな収穫ですね!さあ、鏡の前に立ってみて下さい。

*齋藤…ヤバい、私、完全に山ガールになってる♡ ♡

 

☆第6章へ続く☆