第1章 登山計画を立てよう!
いつ、どんな山に行く?
標高と標高差
*鷲尾…ひと口に山と言っても、高尾山と富士山では登れる時期も必要な装備や体力も、全然違います。それはわかりますよね?
*齋藤…高さが違うってこと…だよね?
*鷲尾…半分は正解です!標高1,000m前後のいわゆる「低山」と、標高2,000mを超える「高山」では、まず登山に適した時期が違います。低山(写真1)の場合、雪さえ積もっていなければ真冬でも楽しめますし、逆に真夏に登ると暑かったり虫が多かったり、かえって登山に不向きな場合もあります。高山の場合、平地ではいわゆる春や初夏と呼ばれる5~6月でも雪がたくさん残っていたり、紅葉時期の9月~10月以降は、また雪に閉ざされてしまうので、初心者が雪山登山の装備なしに登れる時期はかなり限られてきます。
*齋藤…じゃあ、夏なら「高山」に登った方が良いってこと?
*鷲尾…いや、そうとも言えないんです。森林限界という言葉を知っていますか?
*齋藤…シンリンゲンカイ?風林火山なら知ってるよ!
*鷲尾…それ、あなたの故郷の敵国の合言葉ですよね…。いわゆる、森とか林とかを構成している“人間の背丈よりもずっと高い木”は、冬の気象の厳しさとかもあって「ある一定以上の標高」より上では育つことができず、生えていないんです。その標高を森林限界(注2)と呼んでいます。
*注2…森林限界の標高は緯度によって異なります。概ね、北海道の山だと1,000m前後、日本アルプスなどの中部山岳地域だと2,500m前後が目安です。
*齋藤…高い木が生えてないってことは、見晴らしも良いってことだよね!?(写真2)
*鷲尾…晴れていれば…ですね。雨が降れば逃げ場がないため濡れるし、風が強ければ、直接影響を受けます。落雷に遭うリスクもある。ついでに言うと、高いところは寒い。
*齋藤…どれくらい寒いの?
*鷲尾…一般的に、標高が1,000m上がると気温は約6℃下がります。あと風速1mの風が吹いていると体感気温はそこからさらに1℃下がります。つまり静岡の海岸部(標高0m)が35℃の真夏日でも、富士山頂(3,776m)で風速5mの風が吹いていると、体感気温は7℃ちょっとしかない。ということになります。
*齋藤…うわー!冷蔵庫だ。確かに、涼しいというよりは寒いって感じだね。
*鷲尾…あと森林限界より上部に行くと、植物はハイマツという背丈の低い松や低木・草(いわゆる高山植物)が生えていますが、足元は岩がゴロゴロしているいわゆる「ガレ場」(写真3)になっている場合が多く、落石や転倒のリスクも高まります。
*齋藤…なるほど。じゃあやっぱり最初のうちは「低山」だけにしておこうかな。
*鷲尾…山そのものの「高さ」に加えて、もうひとつ気にしてほしいのが、あるくルートの「標高差」です。例えば奥多摩にある川苔山は標高1,363mですが登山口(鳩ノ巣駅)の標高が300mちょっとしかないので、標高差は1,000m以上もあるんです。逆に北アルプスの乗鞍岳は標高3,026mですが、登山口(畳平)の標高が2,700mあるので標高差は300mで済みます。
*齋藤…1,000mってことは、東京タワー3本分も登るんだ。無理かも…。
*鷲尾…そうですね。初心者のうちは、1日の標高差が5~600mくらいまでのコースを選ぶのが無難ですね。少し体力に自信がついてきたら標高差1,000m前後にチャレンジ、そこでも問題なければ標高差1,500m以上(写真4)に、とステップアップしていきましょう。
*齋藤…ちなみに標高差600m登るのに、どれくらい時間がかかるの?
*鷲尾…いい質問です!山の斜度やその人の体力によっても大きく変わるのですが、初心者が無理のないペースだと、だいたい1時間で300m前後の標高差を登り、1時間で400m前後の標高差を下れるペースが目安だと思います。このペースで600mの標高差を登って下ると、休憩なしでも3時間半くらいの時間がかかります。初心者のうちは、1日の歩行時間は長くても4時間以内に留めたいところです。その意味でも標高差が600mくらいまでのコースを選ぶのが無難というのは理に適っています。登山地図やガイドブックには、だいたいルートに所要時間(=コースタイム)が書いてあるので参考にして下さい。
コースの形状
*齋藤…それ以外にコース選びで注意することって、何かあるかな?
*鷲尾…コースを地図でなぞった時の“カタチ”ですかね。カタチには「往復コース(図5)」「周回コース(図6)」「縦走コース(図7)」の3種類があります。図にすると、こんな感じ。
往復コースなら、途中で体調が悪くなっても引き返すことができますよね。登ってきた道を下るので、登山道の様子もわかっていて割と安心です。
周回コースの場合、登りと下りの道が違うので景色に変化があって面白い反面、途中で何かトラブルがあって時に、引き返すか?残りを歩きった方が良いか?難しい判断を迫られることもあります。
縦走コース(写真8)になると、登山口と下山口が違うので交通手段も限られますし、荷物も原則すべて背負って歩く必要があります。
*齋藤…マイカーで縦走は、無理だね。
*鷲尾…そうですね。縦走の場合は、下山口の交通機関のダイヤを把握しておくだけでなく、万が一縦走を断念せざるを得ない時のエスケープルートも考慮に入れておく必要がありますね。
*齋藤…どこの山に行こうかな♪
*鷲尾…しつこいけど、もうひとつだけ注意があります。さっきの乗鞍岳のように登山口の標高が高い、つまり高いところまで乗り物で行ける「高山(注3)」は標高差・歩行時間が少ないので初心者にも人気があります。注意点としては、さっき説明したとおり、森林限界より上での行動になるので、風・雨・寒さへの対策やガレ場での怪我に備えて、しっかりとした装備・服装で出かけて下さいね。
*注3…乗り物で高いところまで行ける代表的な「高山」
・木曽駒ヶ岳(2,956m)…約2,612mの千畳敷カール(写真9)まで駒ケ岳ロープウェイでアプローチ可能
・立山・雄山(3,003m)…約2,430mの室堂(写真10)まで立山黒部アルペンルートでアプローチ可能
・乗鞍岳(3,026m)…約2,700mの畳平まで、乗鞍スカイラインでアプローチ可能(写真11)
*齋藤…わかった!じゃあとりあえず、東京の近くの標高差も歩行時間も少ない山で練習して、体力がついたらやっぱりアルプスに行きたいから槍ヶ岳とかに挑戦してみようかな♩
でも、山の道具や服って、高いんだよね。何を買ったら良いのかな。
*鷲尾…じゃあ、これから登山用品店に一緒に行ってみましょう!
☆第2章に続く☆